えば、気の触れた弟子《おとうとご》に行くはずはなし、そっくりそのまま婿のわが身にころがり込むだろうと、あのようなおろかなまねをいたしまして、このわたくしまでをも、こんな悪のところに押し込め、今が今まで身代を譲れの渡せのと、責め折檻《せっかん》をしていたのでござります。――どなたさまやら、なんとおっしゃるだんなさまやら、年寄りの目には……この老婆の目には、生き如来様のように見えまするでござります」
「もったいのうござんすよ。拝まれるほどの男じゃねえんです。お手をおあげなすって! お手をおあげなすってくだせえまし! そんなに拝まれりゃ、地もとの観音さまに申しわけござんせんや」
 まことに淡々として名利に淡泊でした。
「じゃ、伝六ッ、なんとやら団兵衛とかいった一家の者は、例のように辻《つじ》番所へでも始末してな。おばあさんはこっちのお駕籠《かご》だ。お乗りなせえまし」
 いたわりながら数寄屋橋《すきやばし》へ引き揚げていくと、舌をかみ切ってひくひくと苦悶《くもん》している玉ころがし屋のそばで、ぼうぜんと失神したようにまごまごとしていたあば敬の前に、老婆をずいと押しやりながら、あっさりと一揖《
前へ 次へ
全48ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング