動いているのです。何を捜そうというのか、だれを待っているのか、玉をころがしながら、ちょいちょいと奥をのぞき、ころがしながらまたちょいちょいと集まったり帰ったりするお客を鋭くながめて、かくすることさらに四半刻――。
と――、そのとき、唐棧《とうざん》の上下に藤倉《ふじくら》ぞうりをつっかけた、一見遊び人ふうと思えるふたりが、弥造《やぞう》をこしらえながら、さっさと玉ころがし屋の奥へ消えると、ほどなくあわてふためきつつ、また姿を見せて、うろたえ顔にささやいた声が、はしなくも名人の耳にはいりました。
「いけねえぜ! いけねえぜ! あねごばかりか、兄貴もしょっぴかれたようじゃねえか。このぶんなら、あっちのほうの玉にも手が回るぜ」
「回りゃ――」
「そうよ。おれたちの笠《かさ》の台だって満足じゃいねえんだ。急ごうぜ」
早口にささやきながら、駆け去るように出ていったのを、ぴかりと目を光らして見送ると、さえた声が間をおかずに伝六のところへ飛びました。
「ホシだッ、野郎どものあとをつけろッ」
「え……?」
「じれってえな、今やつらが、あっちのほうの玉にも手が回るぜといったじゃねえか。その玉とは、こ
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