、この玉ころがしなる遊びは、坂になった台があって、そのところどころに無数の障害物たるくぎを打ち、坂の下に江戸、京都、大坂《おおさか》、長崎《ながさき》、名古屋なぞと地名を書いた穴を設け、上からころがした玉が、くぎの障害物に当たっては当たり、当たっては当たって、あちらへころがり、こちらへ突き当たりながら、下に設けた穴のうちの江戸へ首尾よくぽとりはいらば、江戸は日本一、したがって景品もまた一等で、おひざもとのひざのもとというのをもじった座ぶとんが五枚、大坂ならば浪華《なにわ》をもじって波の花の塩が五合、長崎ならば長く先までつづくというところからひもが一本、名古屋ならば金のしゃちにまねて、おもちゃの瀬戸焼きのしゃちが二個といったような景品のつく遊びなのです。もちろん、なかなかその穴に玉がはいらないので、一個ころがすのが一文というような零細な金高でもけっこう商売になる遊びですが、名人がまたひどくおもしろそうに、ころがしてはころがし、しきりに繰り返していたものでしたから、
「ちぇッ」
 あやうく鳴らそうとしたのを、目顔でしかりながら繰り返すこと四半刻《しはんとき》。――しかし、その目は絶えず鋭く
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