んてまあ意地まがりだろうな。ついもののはずみで、番台にたとえただけじゃござんせんか。いつまでもそう意地わるくいびらなくたってもいいでやしょう」
「いいえ、どうせあたしはふろ屋の番台ですよ。アッハハハ。伝六あにい、きょうはけっこうなお日よりでござるな」
 笑いわらいそこの座敷のすみを見ると、ここにも変なものがあるのだ。殺されるまえまで遊び戯れてでもいたらしいすごろくなのです。子どもにすごろくは少しも不思議はないが、いぶかしいのはその賽《さい》! 粘土造りの安物と思いのほかに、りっぱな象牙《ぞうげ》なのです。子どものすごろく用にはぜいたくすぎる角製のさいころなのです。いや、不審はそればかりではない! すごろく盤の上をよくよく見ると、ところどころにちかちかとなにか光っている粉がついているのだ。金です! 粉れなく金粉なのです! 同時に名人の目も鋭くぴかりと光ると、さえざえとしたことばがはじめて飛びました。
「あにい!」
「えッ! ごきげんが直りましたかい」
「町方役人というものはな」
「どうしたというんです」
「腕ずくでネタやホシをかっ払っていったとてな」
「さようさよう」
「変なところであい
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