くと、新しい白木の位牌《いはい》が二枚あるのだ。――一枚は新帰元泰山大道|居士《こじ》という戒名。他は同じく新帰元円明貞鏡大姉とあるのです。
「フフン。居士号大姉号をつけてあるところは相当金持ちだな」
「え……?」
「てつだってくれなくともいいよ。どうせ、おれはふろ屋の番台だからな。おめえはひとりでかんかんおこってりゃいいじゃねえかよ」
「ちぇッ」
裏を返してみるとよろしくない。新帰元とあるからには、いずれ最近に物故した新仏だろうとは思われましたが、このころもこのころ、仏はふたりともに、寛永十六年十二月十二日没、すなわち去年の師走《しわす》の同じ日にそろってなくなっているのです。そのうえ、二つの位牌の前には数珠《じゅず》があるのだ。しかも水晶。仏壇ですから数珠があるのに不思議はないが、男の子どもが三人と気違いと、よそから飛び込んできた疑問の女と、人物は五人しか現われないのに、祥月命日が同月同日の新しい位牌が二つあって、その前にけっこうな水晶の数珠があるとは、余人ならいざ知らず、名人の目をもってしてははなはだ大問題です。
「そろそろ少し――」
「え? なんです? なんです? 何か眼《が
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