見せず、ゆうぜんと見ながめていたので、伝六が当然のごとくに爆発させました。
「おいらもう……」
「なんでえ」
「いいですよ! そんな薄情ってものはねえんだ。なにもこの場に及んで、草香流の出し惜しみなんぞしなくたってもいいんだ。なんべん使ったってもべつに減るもんじゃねえんだからね。いいんですよ! 子分の災難を見ても、腹のたたねえようなだんななら、こっちにだっても了見があるからいいんですよ」
「ウフフフ……」
「何がおかしいんです! 人のいいばかりが能じゃねえんだ。いいえ、納まっているばかりが能じゃねえんですよ。納まっている人間がえれえんなら、ふろ屋の番台はいちんちたけえところにやにさがっているんだからね、日本一えれえんだ。ほんとにばかばかしいっちゃありゃしねえや。気違いもとられ、子どももとられ、女までも巻きあげられてどうするんですかい! 眼になるネタは一つもねえじゃござんせんか!」
 しかし、名人は依然にやにやとやったきり、あちらをのそのそ、こちらをのそのそと家のうちを歩いていましたが、そのときふと目についたのは、すばらしいりっぱな金も相当かかったらしい仏壇です。しかも、ひょいと中をのぞ
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