ができないとみえて、敬四郎をはじめ配下の小者三人が総がかりとなりながら、汗水たらしてまごまごと、あちらに追い、こちらに追い、必死に追いまわしているさいちゅうなのでした。
「ほほう、なかなかご活発でいらっしゃいますな。ヤットウのおけいこでござりますかな」
笑止なその光景をみて、やんわりと皮肉に揶揄《やゆ》しながら、ぬっと雪ずきんのままで名人が静かにはいっていったものでしたから、恥ずかしかったのと腹だたしさがごっちゃになったとみえて、敬四郎がどもりどもり青筋を立てながら、当然のごとくに口ぎたなく食ってかかりました。
「貴、貴公なぞが用はないはずじゃ。のっぺりした身なりをいたして、何しに参った!」
「これはきついごあいさつじゃ。だいぶ逆上していらっしゃるとみえますな。ときに、この狂人にご用がおありでござろうな」
「いらぬおせっかいじゃわッ」
しかし、おせっかいであろうと、やっかいであろうと、二刻《ふたとき》近くもかかっていまだに捕えることができないとならば、いかほど皮肉をいわれたとてもしかたのないことです。
「だいぶお困りのようだから、ご用ならばお手を貸しましょうかな」
軽くいいながら
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