ツになっても七ツになっても、いたずらにしんしんと粉雪が舞うばかりで、いっこうに小さいのが姿を見せなかったものでしたから、物議をかもさずにいられるわけはない!
「ちくしょうめ。やけにまた降りやがるな。雪は豊年の貢《みつぎ》がきいてあきれらあ。おいらにゃ不作の貢じゃねえか。ね! だんな!」
「…………」
「ちぇッ。せめて相手になとなっておくんなさいよ、この雲行きじゃ、辰の野郎め、ご印籠どころじゃござんせんぜ。雪中を大きにご苦労だった。ついでにいま一度屋敷へ回って、腰元どもでも相手にゆるゆるちそうをとっていけ、とでもいうようなことになって、やつめ、やにさがっているにちげえござんせんぜ。豆州さまのお腰元となると、またやけに絶品ぞろいなんだからな。くやしいな」
 鳴っているさいちゅう、不審です。どうしたことか、伝六のまげのもとどりの元結いが、ぷつりひとりでにはぜて飛びました。
「よッ。気味がわりい! けさ結ったばかりなのに、なんとしたものでしょうね!」
 いうかいわないかのとき、ぶきみともぶきみ、そこの床の間の刀かけにかけてあった名人愛用の一刀が、するりと鞘走《さやばし》りました。元結いの切れる
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