用しようと思いついたのでした。もしも、権藤四郎五郎左衛門なる長い名のその生駒家新浪人が、いちはやくご府外へ逐電したならば、五街道口のいずれかの隠し屯所へ、まだ市中に潜伏しているならば一町目付けのどこかの隠し場所へ、必ずなんらかの足跡動静を残しておいたであろうと知ったからです。
命ぜられた采女以下の近侍も、もとよりそれなる浪人網は熟知してのこと、たちまちそこへ引き出した馬は、いずれも駿馬《しゅんめ》の八頭でした。秘密の急使に立つ乗り手の八人は、伊豆小姓と江戸に評判の美童ぞろい――。
「おう、いずれも用意ができたな。よいか、四人は街道口隠し屯所へ。あとの四人は市中の一町目付けへ、いま右門が申した人相書きの浪人を目あてに、ぬかりなく動静探ってまいれよ。念までもあるまいが、隠し屯所へ出入りいたすときは、人に見とがめられぬよう、じゅうぶんに注意いたすがよいぞ」
「はっ」
とばかりに八美少年は、馬上ゆたかに雪の道を、八方に散っていきました。――ときに二更近くの五ツ下がり。
4
残った名人主従は、辰の霊前にじっと端座したままでした。つねならば千鳴り万鳴りの伝六が鳴らずにいるはずは
前へ
次へ
全43ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング