おける時代は、浪人のほうも極度に跋扈《ばっこ》し、伊豆守のほうでもまた、極度に弾圧取り締まりに力をつくした時代で、ご府内すなわち江戸市中に浪人の潜入し、跋扈するのを防ぐために、五街道《ごかいどう》への出入り口出入り口に、浪人改めの隠し目付け屯所《とんしょ》なるものを秘密に設け、すなわち、東海道口は品川の宿、甲州街道口は内藤新宿《ないとうしんじゅく》、中仙道《なかせんどう》口は板橋の宿、奥羽、日光両街道口は千住《せんじゅ》に、それぞれまったくの秘密な隠し屯所を設けて、四六時中ゆだんなくそれらの五街道口を出入する浪人の身分改め、ならびに不審尋問を行ない、市中そのものにはまた一町目付けという隠語をもって呼ばれた、同じ浪人取り締まりの隠し目付け屯所を各町各町に設置しておいて、ある者は町人に化け、ある者はまた職人にやつして、市中在住の浪人どもを絶えず監視せしめ、かつまたその動静を内偵せしめて、大小残らずの報告を細大漏らさずおのれの身辺へ集中せしめるような、じつにおびただしくも精密な取り締まり網が張りめぐらされていたことを熟知していたればこそ、名人はさとくもそのくもの手のごとき浪人取り締まり網を利
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