くらいおよそばかばかしくて、めでたい職業というものはまたとないが、しかし事ひとたびお鷹野の仰せいだしがあったとなると、ばかばかしがったり、めでたがってはいられない。預かり鳥のできふできによって、いただく禄にも響き、家の系図にもかかわるんですから、水垢離《みずごり》とってはだし参りをするほどの騒ぎです。
 かくて、当日吉祥寺裏のお鷹べやから伴っていった隼《はやぶさ》は、姫垣《ひめがき》、蓬莱《ほうらい》、玉津島《たまつしま》など名代の名鳥がつごう十二羽。
「これよ、伊豆」
「はっ」
「あちらの畑で、百姓どもが珍奇な槍《やり》を振りまわしている様子じゃが、あれはなんじゃ」
「恐れ入ってござります。あれなる品は槍でござりませぬ。鍬《くわ》と申す農具にござります」
「なに、あれが鍬と申すか。ほほうのう。予はよい学問いたしたぞ」
 できるものなら二日《ふつか》ばかり将軍さまになってみたい。――たいそうもなく斜めないごきげんで鷹野をつづけていくうちに、下尾久へはいろうとするあたりから、年まえの江戸には珍しい粉雪が、ちらちらと舞いだしました。なんともふつごう千万な話です。せっかくの鷹狩りに雪が舞いだ
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