したとは、いいようもなくふらちな話ですが、雪になったとならば、残念ながらお鷹が飛ばないのです。鷹野にやって来て、第一の狩り道具たる鷹が飛ばないとならば、いうまでもない!
「帰館じゃ! 予はもう帰館いたすぞ。供ぞろいせい!」
「ちぇッ。なんでえ! なんでえ!」
お中止になったそのお沙汰《さた》を聞いて、響きの物に応ずるごとく、たちまち鳴りだしたのは余人ならぬ伝六でした。――もっとも、伝六なぞのいたところは、うしろもうしろもずっとうしろの、遠がすみにかすんで見えるあたりでしたから、中止のお沙汰が将軍家からまず伊豆守に伝わり、伊豆守から諸侯がたに伝わり、諸侯がたから近侍に伝わり、近侍からお徒供《かちとも》、町方衆へと、そのまた町方のいちばん末の伝六なぞのところまで伝わってくるには、そばかうどんであろうものなら、とっくにもう伸びてしまっている時分でしたが、しかし遠いところにいようと、近くにいようと、このもっぱらうるさいやつが、町方警固の衆の一人としてお供うちに加わっていた以上、たちまち自慢の鳴り音をあげたのは当然なことです。
「なんでえ! なんでえ! だからおいら、てんとうさまとさいころばか
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