吉祥寺裏のお鷹《たか》べやからお鷹をお連れになり、上尾久《かみおぐ》、下尾久、と川に沿って、ほどよく浩然《こうぜん》の気を養いあそばしつつ、お昼食は三河島《みかわしま》村先の石川|日向守《ひゅうがのかみ》のお下屋敷、そこから川を越えて隅田村に渡り、大川筋を寺島村から水戸家のお下屋敷まで下って、狩り納めのご酒宴があってから、めでたく千代田城へご帰館というのがその道順でした。
 おなりの順序が決まると、第一に忙しいのは、むろんのことに沿道沿道の警固に当たる面々ですが、それにつづいて多忙をきわめるのは、吉祥寺裏のお鷹べやで、お鷹のご用を承っている鷹匠《たかしょう》たちです。当時将軍家のおなぐさみ用として用意してあったお鷹べやは、東狩りのときのご用のこの吉祥寺裏と、西狩りの場合のご用の大久保とつごう二カ所あったもので、この二カ所に飼育されている鷹が六十六羽。これを預かっているお鷹匠が二十人。この二十人が、一年に一度あるか、二度あるかわかりもしないお鷹狩りをあてにしながら、いっこうおもしろくもおかしくもない鷹を相手に暮らして、けっこうりっぱなお禄《ろく》をいただいているんですから、世の中にお鷹匠
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