注文先はどこのどいつだ!」
「生駒《いこま》さまのご家来の――」
「なにッ。ああ、たまらねえな! だんな! だんな! 眼だッ、眼だッ、眼のとおりだッ――あっしゃ、あっしゃもう、うれしくって声が、ものがいえねえんです! 代わって、代わって洗っておくんなせえまし……! うんにゃ、まて! まて! やっぱりあっしが洗いましょう! 辰が喜ぶにちげえねえから、あっしが洗いましょう!――とっさん! 生駒のご家来の名はなんていう野郎なんだッ」
「権藤四郎五郎左衛門《ごんどうしろうごろうざえもん》様といわっしゃる長い名まえのおかたでございますよ」
「身分もたけえ野郎か!」
「野郎なぞとおっしゃっちゃあいすまぬほどのおかたでごぜえます。禄高《ろくだか》はたしか五百石取り、三品流《みしなりゅう》の達人とかききましたよ」
「つらに覚えはねえか!」
「さよう……?」
「覚えはねえか! なんぞ人相書きで目にたつようなところ、覚えちゃいねえか!」
「ござります。四十くらいの中肉|中背《ちゅうぜい》で、ほかに目だつところはございませぬが、たしかに左手の小指が一本なかったはずでござります」
「ありがてえ! ありがてえ!
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