たきを討って成仏させてやらなくちゃ、兄分がいがねえんだから、伝六に男をたてさせておくんなせえまし!」
手がかりの一刀を名人の手から奪い取って、矢玉のようにおどりこむと、そこの細工場でこつこつと刻んでいた千柿老人に鍔元《つばもと》をさしつけながら、かたきが目の前にいでもするかのように、どもりどもりやにわといいました。
「こ、こ、これに覚えはねえか!」
「…………?」
「急ぐんだッ、パチクリしていねえで、はええところいってくれッ。この鍔は、どこのどいつに頼まれて彫ったか覚えはねえか」
「控えさっしゃい」
「控えろとは何がなんだッ。右門のだんなと、伝六親方がお越しなすったんだッ。とくと性根をすえて返事しろッ」
「どなたであろうと、まずあいさつをさっしゃい!」
「ちげえねえ! ちげえねえ! おいらふたりの名めえを聞いても恐れ入らねえところは、さすがに名人かたぎだな! わるかった! わるかった! じゃ、改めて、こんばんはだ。この鍔に覚えはねえか!」
「なくてどういたしましょう! まさしく、こいつはてまえが、大小そろえ六年かかって刻みました第八作めの品でございますよ」
「そうか! ありがてえ!
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