ああ、ありがてえな!――だんな! だんな! お聞きのとおりでごぜえます。これだけの手がかりがありゃ、ぞうさござんすまいから、はええところなんとかしてくだせえまし! どけえ逃げやがったか、はええところ眼をつけておくんなせえまし!」
「よしッ。泣くな! 泣くな!」
じっとうち考えていましたが、ひらりと駕籠にうち乗ると、
「お陸尺《ろくしゃく》! お屋敷へ!」
いかなる秘策やある?――ふたたび豆州《ずしゅう》家のお下屋敷目ざして息づえあげさせました――雪はもとより降りつづいて、文字どおりの銀世界。ぼうッと夢のようにぼかされた白銀《しろがね》のその雪の夜道を、豆州家自慢のお陸尺たちは、すた、すた、と矢のように飛びました。
行きついたときは――天下の執権松平伊豆守様がお手ずからもったいないことです。恩顧の隠密《おんみつ》古橋専介のむくろに並べて、善光寺辰こと辰九郎のなきがらをもいっしょに、お屋敷内の藩士たまりべやに安置しながら、香煙|縷々《るる》としてたなびく間に、いまし、おみずからご焼香あそばさっていられるところでした。
「御前!」
「おお! 首尾はどうじゃ!」
「もとより――」
「上
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