違ないのです。
「ふふうむ! さすがそちじゃな……」
名宰相の口からは、いまさらのように感嘆の声がほころびました。
しかし、名人にとってはこれからが明知の奮いどころです。
しからば、何者が専介と辰のかたきであるか?
なんのために[#「なんのために」は底本では「なんために」]、専介がいどまれるにいたったか?
いどんだ敵は、切った敵は、どこの者か?
鋭くその目を光らして、専介の死骸《しがい》を見調べていましたが、いつものあのからめ手攻めです。からめ手吟味のあの明知です。伊豆守を驚かして、ずばりとホシをさしました。
「よッ。これなる古橋専介どのは、絵のおたしなみがござりまするな!」
「そのとおりじゃ! そのとおりじゃ! 雅号を孔堂と申して、わが家中では名を売ったものじゃが、どうしてまたそれがわかった!」
「指に染まっている絵の具がその証拠にござりまするが、では、絵をもってご仕官のおかたにござりましたか」
「いや、わしが目をかけて使うていた隠密《おんみつ》のひとりじゃ」
「なんでござりまする! 隠密でござりますとな! 近ごろでどこぞにご内命をうけて、内偵に参られたことござりましたか
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