取りに来た辰がこんな災禍に会ったか! どうして専介といっしょに、かような巻き添えくって、むざんな横死を遂げるにいたったか?――それです。なぞと不審は、その一事です。
だが、名人の明知は、真に快刀乱麻を断つがごときすばらしさでした。
「なわがない! 辰がはだ身離さず所持いたしている投げなわが、腰にも懐中にも見当たらない! 察するに、弓を取りにここまで参り、何者か専介どのにいどみかかっている敵を見つけ、すけだちに飛び出したところをやられたに相違ないゆえ、伝六ッ、雪をかいてこのあたりを捜してみろ!」
伝六もとより必死! けんめいに、辰の周囲の雪をかき分けたその下から、果然出てきたのは、日ごろ手なれのその投げなわの端です。たぐり寄せつつ雪の下から引き抜くと、先がない! 推断どおり、まんなかごろからプツリと一刀両断に断ち切られているのです。通りかかって専介と敵とが争っている現場でも見かけ、一度はきっとみごとに相手をからめ押えたのに、敵はよほど腕がさえてでもいたとみえて、プツリと投げなわを断ち切り、しかもその一刀で辰をも切りすて、かく相討ちのごとき形をよそおっておいてから、すばやく逐電したに相
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