ました。
「専介どのを討ったのは辰でござりませぬぞ」
「なにッ。辰でもないとな! たれじゃ! たれじゃ! しからば、ふたりとも他の下手人の手にかかったと申すか」
「はい。右門の見るところをもってすれば、まさしくそれに相違ござりませぬ。その証拠は、両名が握りしめている太刀《たち》の握り方でござりますゆえ、ようごろうじなさりませ。ほら! かくのとおり専介どのは握りしめたままで切られたと見えて、いかほど引いても抜けませぬ、辰のはこのとおり――」
 引くと同時に、その手から所持の太刀がするすると抜けました。抜けたとすれば、いうまでもない――辰の手にしていたいっさいは、あとから握らせた証拠です。切っておいて、殺しておいて、むりやりあとから握らせたに相違ないのです。しかも、ふたりの受けている致命傷が、同型のうしろ袈裟とすれば、同一人が専介、辰の両人を切って捨てておいて、おのが犯行をくらますために、切った太刀を辰の手に握らせたうえ、さも両名が相討ち遂げて倒れたごとく見せかけて、いずれへか逐電したに相違ないのです。その推断に誤りなくんば、当然のごとくつづいて起きる疑問は次の一事でした。
 なぜまた弓を
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