町、綿屋小町、畳屋小町の三人が、いずれも等しく水色の行衣をまとって、人ごこちもないもののごとくおびえつづけていたからです。しかも、その前へ三方にうちのせて、供物のごとくにささげ供えられてあるものは、見るだに慄然《りつぜん》とぶきみにとぐろを巻いた一匹の白へびでした。その一歩うしろにさがって綸子《りんず》白衣の行服に緋《ひ》のはかまうちはきながら、口に怪しき呪文《じゅもん》を唱えていた者は、これぞ妖艶《ようえん》そのもののごとき、尋ねる比丘尼行者でした。さらに一歩うしろにひれ伏して一心不乱にぬかずいていた者は、いわずと知れた葬具屋主人の九郎兵衛です。
いぶかしともいぶかしい光景に、押し入った五人の者の目をみはったのはむろんでしたが、それと同時に早くも知って、あッとおどろきあわてながら、疾風のごとく逃げだそうとした者は、九郎兵衛ならぬ比丘尼小町です。しかし、一瞬に草香流!
「おそいや! 神妙にしろッ」
ぎゅっとそのなまめかしくもやわらかい色香盛りのきき腕押えて、ややしばし蔵の中の異様きわまりない光景を見ながめていましたが、いまぞはじめて名人の本来真面目に立ち返ったもののごとく、ずばりと溜飲《りゅういん》下しの名|啖呵《たんか》が飛んでいきました。
「むっつり右門といわれるおれを向こうに回して、とんでもねえ茶番をうったものじゃねえか。さすがのおれも、今度ばかりはちっと汗をかいたよ。九郎兵衛おやじ!」
「へえ?」
「きさまも途方もねえいかもの行者に化かされたな」
「何をめっそうなことをおっしゃいますか! 屋敷の主のお白へびさまに一度も供養したことがございませんため、屋の棟《むね》に妖気《ようき》がたち上っているとそちらのお比丘尼さまがおっしゃってくださいましたゆえ、こうして一心不乱におへびしずめの行を積んでいるのに、何をもったいないことをおっしゃいますか!」
「隠坊屋《おんぼうや》の親類みてえな商売やっているくせに、みっともねえのぼせ方しているな。目がさめなきゃ、おれが正気にさせてやらあね。おいおい、比丘尼さん!」
「…………」
「ひとりあってふたりといねえおれなんだッ。早く涼みてえから、すっぱりと吐いちまいなせえよ」
「…………」
「ほほう、このうえ小知恵小才覚で、おれを向こうに回そうとおっしゃるのですかい。大味のようならこっちも大味、小味に出ればこっちも小味、むっつ
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