り右門にゃいくらでも隠し札があるぜ」
「恐れ入ってござります……」
「恐れ入っただけじゃわかりませんよ。玉の輿《こし》に乗ろうと思えば、いくらでも乗られるそのご器量で、この大仕組みの茶番をするにゃ、何か思いもよらねえいわくがあるだろうとにらみましたが、違いますかね」
「…………」
「もじもじなさる年ごろでもなさそうじゃござんせんか。じらさずに、すっぱり吐きなせえよ」
「お恥ずかしいことでござりまするが、じつは、一生一度と契り誓いました情人《おもいびと》に、金ゆえ寝返りされましたため、思い込んだが身の因果、小判で男の心をもう一度昔に返すことができますものならと、とんだ人騒がせをしたのでござります……」
「なにッ、恋が身を焼いたとがですとな! そいつあちっと思いもよらなすぎますが、そう聞いちゃなお聞かずにおられねえや。てっとりばやくおいいなせえよ」
「申します、申します。もとわたくしは京に育ちまして、つい去年の暮れまで、二条のほとりでわび住まいいたしまして、古い判じのへび使いをなりわいにいたしておりましたが、ふと知恩院の所化道心《しょけどうしん》様となれそめまして、はかない契りをつづけていましたうちに、わたしとの道にそむいた恋がお上人《しょうにん》さまのお目にとまり、たいせつなたいせつな所化様は寺を追われたのでござります。それまではなれそめたが因果にござりましたゆえ、男もわたしも互いに変わらじ変わるまいと、さっそく還俗《げんぞく》いたしまして、行く末先のよいなりわいを捜し求めようといたしましたが、先だつものは金。困《こう》じ果てているところへ魔がさしたというのでござりましょう、所化のころから出入りしておりましたるお檀家《だんか》の裕福なお家さまが、命とかけたわたしの思い人を金にまかせて奪い取り、ふたり手を携えこの江戸に走りまして、四谷《よつや》の先に袋物屋を営みおりますと知りましたゆえ、恥ずかしさもうち忘れあと追いかけまして、昔のふたりに返るよう迫りましたところ、男の申しますには、金子七百両がなくば義理をうけたお家さまから手が切れぬとこのように申しましたゆえ、男心がほしいばっかりにその七百両をこしらえようと、このような人騒がせのまねする気になったのでござります」
「でも、そのために、無垢《むく》な小町娘をねらうたあ、ちっとやり方があくどすぎるじゃござんせんか」
「いいえ
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