右門捕物帖
へび使い小町
佐々木味津三
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)勃発《ぼっぱつ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)両国|河岸《がし》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#疑問符感嘆符、1−8−77]
−−
1
――ひきつづき第十七番てがらに移ります。
前回の七化け騒動がそもそも端を発しましたところは品川でしたが、今回はその反対の両国|河岸《がし》。しかも、事件の勃発《ぼっぱつ》した日がまたえりにえって七月の七日。七日と申しますと、だれしも想起するものは今も昔ながらに伝わっているあのたなばた祭りです。土地土地、国々の風俗習慣によって、同じたなばた祭りもその祭り方に多少の相違があるようですが、この当時、すなわち徳川お三代ごろの江戸上流階級において、すこぶる盛んに用いられた方法は、王朝ながらの優雅をそのまま伝えたたんざく流し――俗にたなばた流しと称する催しでした。もっとも、こののち万治元年に至りまして花火がくふうされ、さらに享保十八年に至りまして、今もなお盛大に行なわれているあの川開きが催されるようになりましてからは、めめしい貴族的なたなばた流しよりも、むやみとパンパンはぜる花火のほうが江戸っ子の唐竹《からたけ》気性にずっとかないましたものか、年一年と花火にお株を奪われまして、ただいまではまったくその面影すらもとどめていないようですが、名人右門存生の当時は、すこぶるこのたんざく流しが隆盛をきわめたもので、夏場の両国河岸を色どる唯一の催し物でした。文字からしてたんざく流しというくらいですから、むろん、たんざくを流すのが遊びの眼目ですが、しかしその流すたんざくなるものが尋常普通の品ではないので、仙骨《せんこつ》を帯びだしたご老体は風流韻事の感懐を託したみそひと文字、血のけの多いあで人たちはいわずと知れた恋歌。お時世がお時世ですから、むろんのことに歌の一つもよもうというほどの者は、いずれもみな上つ方ばかりです。したがって、座用の舟なぞも金には糸めをつけぬぜいたくな屋形船で、おあつらえどおりに涼しげなすだれを囲い、みやびたぼんぼりの灯《ほ》ざしがちらちらと川風にゆらめく陰で付き添いのお腰元が蒔絵
次へ
全25ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング