の数の三人分であるあたりといい、あまつさえ表の文句に見える満願の日うんぬんにいたっては、いかに小町娘たちの無事息災なるべきことを祈り願っても祈りきれぬ不安と絶望がだれにも思い合わされましたので、伝六、辰はもちろんのこと、ふたりの父親たちはいうもさらなり、いぶかしき手紙をひざにのせて、蒼然《そうぜん》とその面を名人も青めくらましながら、ややしばしじっと考えに沈んでいたようでしたが、やがて突如!
「ちくしょうめッ。すっかり頭を痛めさせゃがって、やっと行き先だきゃ眼がついたぞッ。伝六ッ、駕籠はどうしたッ」
「表に待たしてごぜえますよ!」
「よしッ。じゃ、小石川だッ」
「えッ?」
「行く先は小石川の白山下だよ!」
「だって、葬式道具の受取にゃ、久世大和守家中としてあるじゃござんせんか! 久世の屋敷なら麹町《こうじまち》ですぜ!」
「うるせえや! おれがこうと眼をつけたんだッ。やっこだこになってついてこい!」
 かくして乗りつけた行き先がすこぶる意外! 大名屋敷ででもあろうと思いのほかに、八百八業中これにましたるぶきみな職業はあるまいと思われる葬具屋九郎兵衛の店先でしたから、伝六、辰の唖然《あぜん》としたのはいうまでもないことですが、しかし、名人右門は期するところのあるもののごとく、居合わした店の者に、突如ずばりときき尋ねました。
「九郎兵衛は家をあけているはずだが、いつからるすをしているかッ」
「いいえ、いるんですよ、いるんですよ。ご主人ならば、家なんぞあけやしませんよ」
「なにッ、いるとな! 奥か、二階か!」
「三日まえから裏の土蔵にたてこもって、何をしていらっしゃいますのか、一歩も外へ顔を見せないんですよ」
 狂ったためしのない慧眼《けいがん》が、今度ばかりは意想外といいたげな面持ちをつづけていましたが、かくと知らばまた右門流でした。
「名のればきりきり舞いをするだろうから、手数をかけずに案内せい!」
 一刻も猶予ならぬもののようにおどり上がると、三日まえからたてこもっているという聞き捨てがたき土蔵のかぎをこじあけさせながら、ちゅうちょなく押し入りました。
 と同時に、目を射たその妖々たる光景は、なんといういぶかしさでありましたろう! なんたる意外でありましたろう! じつに意想外のうちの意想外な光景でした。土蔵の中に設けられた祭壇の上には、無事でいまいと覚悟された式部小
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