した。
 しかし、あいにくとそのとき、おふたりのごあいさつが終わって、尾州侯がふたたびお駕籠に召されながら、伊豆守様のお召し駕籠ともども、しずかにお行列が練りだしましたものでしたから、いぶかりながらもお見送り申しあげていると、後詰めの徒侍《かちざむらい》がやはり六十名。それにお牽馬《ひきうま》[#「お牽馬」は底本では「お索馬」]が二頭、茶坊主、御用飛脚、つづいてあとからもう一丁尾張家の御用駕籠が行列に従ってやって参りました。参覲交替にお替え駕籠というのもあまり聞かない話であるし、もしおへやさまなぞをこっそりとご同伴であった場合は、世間体をはばかるために、普通お行列よりも半日くらい先に立たせるか、ないしはまた遅れてお道中をさせるのが通例であるのに、どうしたことか、どなたがお召しになっているのか、もう一丁御用駕籠がお行列につき従ってやって参りましたものでしたから、はてなと思って怪しんでいると、まさにそのせつなです。くだんの八ツ山坂を向こうに駆け抜けていった不審の駕籠が、そこのちょっとした木立ちの陰にぴたり息づえを止めたかと見えましたが、咄《とつ》! 奇怪! ――怪しの駕籠の中から、二本の腕
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