がぬっと出るやいっしょで、きりきりと双手《もろて》さばきの半弓が満月に引きしぼられたかと思われましたが、ヒュウと一箭《いっせん》、うなりを発しながら一本の矢が風を切って飛来すると同時に、今、右門が不審をうった行列うしろのその御用駕籠へ、たれを通してぶつりと命中したものでしたから、なんじょう騒ぎたたないでいられましょうぞ!
「くせ者じゃ、くせ者じゃッ」
「狼藉者《ろうぜきもの》でござりまするぞッ」
 すわ珍事とばかりに、呼び叫んだ声といっしょで、めでたかりし参覲途上のお行列は、たちまち騒然と乱れたち、まず何より先にと供まわりの一隊が十重二十重《とえはたえ》の人楯《ひとだて》つくって、尾州侯豆州侯お二方のお召し駕籠をぐるりと取り巻きながら、とりあえず安全な地点へお運び申しあげる。一隊はまた坂上のくせ者めがけて逃がさじと駆けつける、残りの徒侍どもは矢を射こまれたなぞの御用駕籠をこれまたぐるりと取り巻いてご警固申しあげる、呼ぶ声、叫ぶ声、駆けこう足音、五十三次やれやれの宿の品川浜は、思わぬ珍事に煮えくり返るような騒ぎとなってしまいました。
 もちろん、われらの捕物名人が、事起こるといっしょで、
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