、手間取らせると、きょうばかりは事が事だから、少々いてえかもしれんぜ」
「し、しかたがござりませぬ。では、もう申します。いかにもお供先を乱したのはてまえでござりまするが、でも、あの毒矢を射込んだおへやさまってえのは、こう見えてもあっしの昔の情婦《いろ》なんでごぜえますよ」
「だいそれたことを申すなッ。かりにもご三家のお殿さまからお寵愛《ちょうあい》うけているお手かけさまだ。下司《げす》下郎の河原者なんかとは身分が違わあ」
「でも、あっしの情婦だったんだからしようがねえんです。できたのは一年まえの去年のことでしたが、駿河屋のおやじからは勘当うけるし、せっぱ詰まってとうとう江戸を売り、少しばかりの芸ごとを看板にして、名古屋表のこの一座の群れにはいっているうちに、お喜久といった茶屋女とねんごろになっちまったんです。するてえと、できてまもなく、ぜひにも百両こしらえてくれろと申しましたんで、八方苦しい思いをやって小判をそろえて持っていったら、それきり金だけねこばばきめて、どこかへどろんを決めてしまったんですよ。くやしかったが、人気|稼業《かぎょう》の者が、そんなぶざまを世間に知られちゃと、歯を食
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