が投げ出されたかと見えましたが、いまし、名人の胸板めがけて窮鼠《きゅうそ》の一箭《いっせん》が切って放たれようとしたそのときおそくこのとき早く、実に名技、弓矢もろともぱッとからめ取ってしまいましたので、あとはもう名人の草香流でした。
「みろ! 痛いめに会わなくちゃならねえんだッ。他言をはばかる吟味だから、へやへ帰れッ」
 手もなく引っ立てられて、烱々《けいけい》とにらみすえられましたものでしたから、宗助も今はどろを吐くよりしかたがなくなりました。
「恐れ入ってござります。いかにも、てまえが先ほどおやじの家へ化けてまいりまして、千両ゆすり取りましてござりますゆえ、お手やわらかにおさばき願います」
「バカ者ッ。そんなこまけえ科《とが》をきいているんじゃねえんだ。なんのために、恐れ多くも品川宿で、あんなだいそれたまねしやがったんだッ。手間を取らせずと、すっぱり吐いちまえッ」
「…………」
「このおれを前にして、強情張ってみようというのかい! せっかくだが、ちっと看板が違うよ。早変わりを売り物にするくれえのおまえじゃねえか。時がたちゃ、こっちの色も変わらあ。痛み吟味に掛けねえのを自慢のおれだが
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