く毛むくじゃら足を大またにさばいて、タッ、タッ、タッと舞合表へ逃げだしましたので、名人、伝六、辰の三人も時を移さず追っかけていくと、だが、いけないことに舞台はちょうど幕をあけて、座方の頭取狂言方が、宗助出せッと鳴りわめいている見物に向かって、平あやまりにわび口上を述べているそのさいちゅうでしたから、不意に飛び出した四人の姿に、わッと半畳のはいったのは当然でした。
「よよッ、おかしな狂言が始まったぞッ」
「おやまの役者が、弓を持っているじゃねえか!」
「おしろいが半分きゃ塗れていねえぜ」
 叫びつつ総立ちとなって、花道にまでも見物があふれ出たものでしたから、ために逃げ場を失った宗助は、ついにやぶれかぶれになったものか、突如、きりきりと引きしぼったのは、西条流鏑矢の半弓!――弓勢《ゆんぜい》またなかなかにあなどりがたく、寄らば射ろうとばかりにねらいをつけようとしたせつな。――だが、われらの名人の配下には、善光寺の辰という忘れてならぬ投げなわの名手がいたはずです。
「野郎ッ。ふざけたまねすんねえ! 昼間だっても、おれの目は見えるんだぞッ」
 いうや、するするとその手から得意の蛇《じゃ》がらみ
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