ゅばん》を素はだにひっかけながら、楽屋いちょうに結った髪のままでせっせと顔におしろいを塗っているさいちゅうでした。しかも、そのうしろには、にらんだとおり西条流の半弓が、まだ残っている六本の鏑矢《かぶらや》もろとも、すべての事実を雄弁に物語るかのごとくちゃんと立てかけてあったものでしたから、名人のすばらしい恫喝《どうかつ》が下ったのは当然!
「鈴原|※[#「てへん+僉」、第3水準1−84−94]校《けんぎょう》! 駿河屋《するがや》のかえりには手下どもが偉いご迷惑をかけたな」
「ゲエッ――」
 といわぬばかりにぎょうてんしたのを、つづいてまたピタリと胸のすく一喝《いっかつ》――
「みっともねえ顔して、びっくりするなよ。さっきとこんどとは、お出ましのだんなが違うんだッ。むっつり右門のあだ名のおれが目にへえらねえのか!」
 きいて二度ぎょうてんしたのはむろんのことなので、しかるに市村宗助、なかなかのこしゃくです。三十六計にしかずと知ったか、楽屋いちょう、緋縮緬、おしろい塗りかけた顔のままで、やにわとうしろにあった西条流半弓を鏑矢《かぶらや》もろとも、わしづかみにしながら、おやま姿にあられもな
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