いしばってそのままにしているうちに、忘れもせぬついこないだの桃のお節句のときです。ご酒宴のご余興の上覧狂言に、尾州様があっしたち一座を名古屋のお城にお招きくだせえましたので、なにげなくお伺いしてみるてえと、おどろくじゃござんせんか、一年知らぬまに茶屋女のお喜久めが、いつのまにか尾州様のけっこうな玉の輿《こし》に乗って、あっしとらにゃめったに拝むこともならねえお手かけさまに出世していたんですよ。だから、その晩でござりました。あっしを生かしておいちゃ、昔の素姓がわかってうるさいと思ったんでごぜえましょう。お喜久のやつめが――じゃないお喜久のお方さまが、あっしに三人刺客を放ってよこしたんです。でも、さいわいに西条流の半弓を少しばかりいたしますんで、どうにかその晩は殺されずに済みましたが、うっかりしてたんじゃ命があぶねえと思いましたんで、さっそく一座を勧めて、この江戸へやってめえったんでごぜえます。するてえと、因果なこっちゃござんせんか、参覲交替で尾州さまが、あっしのあとを追っかけるように、お喜久の方さまともども江戸へお越しと人づてに聞いたんで、見つかりゃあっしの昔の素姓を知っているかぎり、い
前へ
次へ
全47ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング