れえますから、おまんまだけでも召し上がってから、お休みくだせえましな」
「胸がつかえて、それどころじゃねえんだ。世の中があじけなくて、生きているのもこめんどうになったから、早く敷いて寝かしてくれよ」
悲しげに横たわると、そのまますっぽり夜具の中に面をうめてしまいました。
4
その翌朝。――
勤番出仕の時刻が来ても、なお名人は床にはいったままでした。ほんとうに世の中があじけなくなりでもしたか、いつまでもいつまでも床の中にはいったままでした。また、名人の身になってみれば、およそこの世にこれ以上のせつないことはなかったのでありましょう。日ごろご愛顧くださる伊豆守様までが詮議を禁じたうえに、そのまた禁じ方なるものが、さながら尾州家において名人の出馬するのを恐るるもののごときけはいがうかがわれましたものでしたから、身分の相違、役の低さに、しみじみとこの世がはかなく思えたのはむべなりというべきでした。しかも、その身に無双の才腕、無双な慧眼《けいがん》知力のあるにおいてをや[#「おいてをや」は底本では「おいておや」]です。だから、伝六、辰の両名が、河童《かっぱ》が陸《おか》へ上が
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