ったよりより以上に、日月|星晨《せいしん》をいちじに失いでもしたかのごとくすっかり影が薄くなったのは当然なので、しょんぼりと小さくまくらもとにすわりながら、黙々、ぽつねんとうち沈んだままでした。
だのに、世間の中にはうるさいやつがあればあるものです。
「お願いでござります! お願いでござります!」
不意に表玄関先で、けたたましく言いどなった声がありましたものでしたから、おこり上戸の伝六が八つ当たりに爆発させました。
「やかましいや! きょうはお取り込みがあるんだから、手の内ゃ出ねえよ!」
「いいえ、物もらいではござりませぬ! 右門のだんなさまのお屋敷と知って、お力借りに駆けつけました者でござりますゆえ、おはようお取り次ぎくださりませ!」
「うるせえな! お通夜《つや》に行ったって、こんなに悲しかねえんだッ。用があるなら庭へ回れッ」
よほどうろたえているとみえ、ずかずか庭先へはいってくると、あわただしく言いたてました。
「てまえはつい目と鼻の小伝馬町に、もめん問屋を営みおりまする駿河屋太七《するがやたしち》の店の手代でござりまするが、ただいまたいへんでござります。おかしなご家人ふう
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