おさしずのねえのが不思議なくらいですよ」
「だから、まずおまんまでもいただいて、ゆるゆると出かけようじゃねえか。さっき品川でかに酢をどうとかいったっけが、ありゃどうしたい」
「ちぇッ。これだからあっしゃ、だんなながらときどきあいそがつきるんですよ。十ばかりさげてけえりましょうかといったら、とてつもなくしかりつけたじゃござんせんか。もういっぺんあごをなでてごらんなせえな」
「ほい。そうだったかい、今度は一本やられたな。じゃ、ちっとじぶんどきがはずれているが、いつもおかわいがりくださる伊豆守様だ。あちらでおふるまいにあずかろうよ」
いいつつ、蝋色鞘《ろいろざや》を腰にしたとき――、表であわただしくいう声がありました。
「ご老中さまから火急にお差し紙でござります」
「なに! 伊豆守様からお差し紙が参ったとな――伝六ッ。なにかご内密のお力添えかもしれぬ、はよう行けッ」
今、お力を借りに行こうといったその松平のお殿さまから、それも火急のご書状といいましたので、いかで伝六にちゅうちょがあるべき、――ねずみ舞いをしながら出ようとすると、四尺八寸のお公卿《くげ》さまが、いたってまめやかでした。のど
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