ろみろ、辰ッ。もぞりもぞりとおはこが出かかったから、静かにしろよ。あのつんつんとひっぱるやつがお出なさりゃ、じきに知恵袋の口があくんだからな」
と――いうかいわないうちに、果然、むくりと起き上がるや、微笑とともにあいきょう者へ、朗らかなところが飛んでいきました。
「な、伝六ッ」
「ありがてえ! 出ましたか!」
「出ねえでどうするかい。おれともあろうものが、とんだおかたのいらっしゃることを度忘れしていたもんじゃねえか。こういうときのお力にと、松平伊豆守様というすてきもないうしろだてがおいでのはずだよ」
「ちげえねえ。ちげえねえ。じゃ、老中筆頭というご威権をかりて、まっさきに尾州様へお手入れしようっていうんですね」
「と申しあげちゃ恐れ多いが、身分の卑しさには、それより道がねえんだ。三百十八大名をかたっぱし洗って、西条流半弓のお手きき殿さまをかぎつけることにしてからが、同心や岡《おか》ッ引《ぴ》きじゃ手が出ねえんだからな。こういう場合の伊豆守様だよ」
「大きにちげえねえや。それにまた、松平のお殿さまだって、お自分がお出迎えのさいちゅうにあんな騒動が降ってわいたんだからね。今まで、だんなに
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