用ならば家の名誉にもござりますゆえ、あらば隠すどころか、進んでも申しまするが、せっかくながら、この三年来、ただの一度もお尋ねのようなことはござりませぬ」
 うそとは思えぬ面ざし向けて、きっぱりと言いきったものでしたから、予想のほかの的のはずれにはたと当惑したのは名人でした。また、これはいかな名人とても当惑するのが当然なので、第一の急所たるべき半弓|詮議《せんぎ》に望みが絶えたとならば、残るてだてはいずれもことごとく困難なものばかりです。例のからめて戦法にしたがい、非業の最期を遂げたおへやさまの素姓を洗ったうえで、いかなる恨みのもとにかような所業を敢行したか、そこから手を染めるのが一法。しからずんば、三百諸侯をひとりひとり当たって、西条流半弓の名手といわれる大名をかぎ出すのがまたその一法でしたが、しかるにからめて吟味そのものはすでに品川表のあの一条のごとく、無念ながらご三家ご連枝の威権によって剣もほろろに峻拒《しゅんきょ》されたあとであり、三百諸侯を洗うについては、これまた悲しいことに月とすっぽんどころか、あまりにも身分が違いすぎましたので、さすがの捕物名人も、ことごとくあぐねきってしま
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