えぜ」
 がてんがいけば天気快晴。いらざるむだ口を善光寺|辰《たつ》にたたいておいて、横っとびに向こうへ飛んでいったと思われましたが、ほどなく宿場育ちの屈強な裸人足を引き連れてまいりましたので、いよいよここにまこと伝六のことばのごとく、城持ち大名と捕物名人の古今|未曽有《みぞう》な力と知恵の一騎打ちが、いまぞ開始されんず形勢とあいなりました。

     3

 行き向かったところは、むろんのことに、今、名人がいった江戸にただ一人しかないという西条流鏑矢のその弓師、名は六郎左衛門《ろくろうざえもん》。住居は牛込の河童坂《かっぱざか》――士官学校があったあの横の坂ですが、河童がここで甘酒屋に化けていたとかいうところからそういう名が起こったのだそうで、家を捜すはこれまた伝六のおはこ。
「だんな、だんな。めっかりましたぜ」
 その河童坂を上りきったところで、てがら顔に呼び招いた声がありましたものでしたから、ただちに駕籠をのりつけさせました。まだ元和《げんな》慶長ながらの武の道がお盛んな時代ですから、もとより商売はことのほかの繁盛ぶりで、三間間口の表店には、百丁ほどの半弓がずらりと並び、職人徒
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