。むっつり右門は鳥目じゃねえや。あの毒矢を見て、ちゃんともうりっぱな眼がついてるんだッ。おまえなんぞおしゃべりよりほかにゃ能はねえから知るめえが、ありゃ西条流の鏑矢《かぶらや》といって、大弓はいざ知らず、矢ごろの弱い半弓に、あんな二また矢じりの重い鏑矢を使う流儀は、西条流よりほかにゃねえんだよ。しかも、その弓師っていうのが、おあいにくとまた、このおひざもとにたった一人あるきりなんだ。かてて加えて、乗り捨てた駕籠の様子が大名にちげえねえとしたら、よし紋所はなくとも、何家の何侯に半弓を納めたか、そいつを洗えばおおよその当たりがつくじゃねえか。のう、江戸っ子の兄い、それでもまだ駕籠のお許しゃ出ねえのかい」
「みんごと一本参りました。――ざまアみろ! でこぼこりゃんこのかぶとむしめがッ。おいらのだんながピカピカと目を光らしゃ、いつだってこれなんだッ――そっちのちっちゃな親方! のどかな顔ばかりしていねえで、たっぷり投げなわにしごきを入れておきなよ。どうやら、城持ち大名と一騎打ちになりそうだからな、遺言があるなら、今のうちに国もとへ早飛脚立てておかねえと、笠《かさ》の台が飛んでからじゃまにあわね
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