えい。じゃ、なんですかい、あのお小姓姿に化けていた女の素姓も、眼がついたんですかい」
「きまってらあ。ありゃ尾州さまがご寵愛《ちょうあい》のおへやさまだよ。そういったら、またおまえが口うるさく何かいうだろうが、おへやさまだからこそ、諸侯のお手本ともなるべきご三家のお殿さまが先へたって行列とごいっしょに参覲《さんきん》道中させたと聞かれちゃ、世間体がよろしくないため、わざわざお小姓にやつさせたんだ。なればこそ、またあの供頭の大将が、それをおれにあばかれちゃならねえと思って、あんなに目色変えながら、忠義だてにけんつくを食わしたんじゃねえか。どうだい、江戸の兄い。それでもまだ駕籠にやはええのかい」
「そ、そりゃ連れてこいとおっしゃれば、仁王《におう》様でも観音様でも連れてまいりますがね。でも、眼のついたというなそれだけで、くせ者大名の乗り捨てた駕籠に紋が一つあるじゃなし、おへやさまのお素姓に探りを入れようとすりゃ、あのとおり、でこぼこりゃんこ(侍)がご三家風を吹かしゃがるし、どう首をひねってみてもそれだけじゃ、手の下しようがなさそうじゃござんせんか」
「いちいちだめを押しやがって、うるせえな
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