相違してことごとくほっぺたをふくらませると、つんけんとそっけなくいいました。
「せっかくですが、いやですよ」
「ほう。江戸の兄いがまた荒れもようだな」
「あたりめえじゃござんせんか! いくら尾州様がご三家のご連枝だからって、江戸へ来りゃ江戸の風がお吹きあそばすんだッ。しかるになんぞや、迷惑だから手をひけたあなんですかい! それをまただんなが、なんですかい! たかがいなかっぺいのけんつくぐれえに尾っぽを巻いて、江戸八百八町の名折れじゃござんせんか! あっしゃくやしいんだッ。ええ、くやしいんです! くやしくてならねえんですよ!」
「…………」
「ちぇッ。黙ってにやにや笑ってらっしゃるが、何がおかしいんですかい! え? だんな! 何がおかしいんですかい!」
「坊やが吹かしがいもしねえ江戸っ子風を吹かすからおかしいんだよ」
「ちぇッ。じゃ、だんなは、江戸っ子じゃねえんですか!」
「うるせえな。おめえが江戸っ子なら、おりゃ日本子だッ。はばかりながら、あれしきのけんつくに、むっつり右門ともあろうおれが、たわいなく尾っぽを巻いてたまるけえ。眼がもうついたんだから、駕籠をよんでくりゃいいんだよ」
「へ
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