つもの胸のすくやつをきっておやりなせよ! 名めえを聞かしゃ、目のくり玉がそっぽへでんぐり返るにちげえねえから、早いとこずばりと名を名のっておやりなせえよッ」
まことに伝法伝六のいうとおり、右門おはこの名|啖呵《たんか》を一つちょっぴり、この辺できってやったら、よし江戸と名古屋と東西百里の隔たりはあっても、広大無辺なその名声に、少しはびっくりするだろうと思われましたが、しかし、こういうところがまたやはり右門流です。
「そうでござりまするか。寄ってはならぬとおっしゃるならば、いかにも手を引きましょうよ」
あっさりいってのけると、いいつつ、じろりとあの鋭いまなこを注いで、半弓に用いた毒矢を遠くから烱々《けいけい》と見ながめていましたが、それさえ検分すればもうじゅうぶんというように、さっさと向こう横町まで引きあげていくと、疾風迅雷《しっぷうじんらい》の命令一下――。
「さ! 伝六ッ。駕籠だッ、駕籠だッ。例の駕籠だよ!」
しかるに、あいきょう者の雲行きが少しばかり険悪なので。いつもこれが名人の口から飛び出せばもうしめたもんだから、すぐにもしりからげになって駆けだすだろうと思われたのが、案に
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