煙たてながらしゃきり出たのは、だれでもない向こうっ気の伝六です。
「なんだと※[#疑問符感嘆符、1−8−77] おい! いなかの大将ッ。用がねえとは何をぬかしやがるんでえ! おいらのだんなが目にはいらねえのかッ」
 江戸っ子気性の伝六としてはまた無理のないことでしたが、巻き舌でぽんぽんといいながら食ってかかろうとしましたので、名人があわてて制すると、微笑しいしいいたって物静かにいいました。
「ご立腹ごもっともにござりまするが、てまえは伊豆守様のご内命こうむりまして、お出迎えご警固《けいご》に参りました八丁堀の同心、役儀のある者でござりましてものぞいてはなりませぬか」
「ならぬならぬッ。だれであろうと迷惑でござるわ! さっさとおどきめされッ」
 しかるに、藩士はあくまで奇怪――ふたたび権高にこづき返しましたので、短気一徹、こうなるとすこぶる勇みはだの伝法伝六が、ことごとくいきりたちながら、あぶくを飛ばして名人をけしかけました。
「だんなともあろう者が、何をぺこぺこするんですかッ。こんなもののわからねえ木念仁のでこぼこ侍をつかまえて、したてに出るがもなあねえじゃござんせんかッ。ぽんぽんとい
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