、大振りそでに紫紺絖《しこんぬめ》はいたるお小姓なのです。容色もとよりしたたるばかり。年のころもまた二九ざかり。さすがご三家のやんごとないご連枝がご寵愛《ちょうあい》のお小姓だけあって、玉の緒絶えたるのちもなお目ざめるほどのたぐいまれな容色をたたえていましたものでしたから、さらにいでてさらに重なる不審な事実に、三たびうちおどろきながら、じっと鋭くまなこを注いでいましたが、――せつな! まことにいつもながらの古今に無双なその烱眼《けいがん》は、むしろ恐ろしいくらいのものでした。
「よッ。それなるおかた、お小姓姿におつくりではござるが、まさしくご婦人でござりまするな!」
 と――、ますますいでて、ますます奇怪でした。ズバリといった看破の一言に、居合わした供頭《ともがしら》らしい尾州家の藩士が、ぎょッならんばかりにうろたえながら、荒々しくこづき返すと、江戸八百八町の大立て物をなんと見誤ったものか、けわしくきめつけました。
「めったなことを申さるるな! 用もない者がいらざるお節介じゃ。おどきめされッ。そちらへとっととおどきめされッ」
 寄ってはならぬといったものでしたから、聞くやいっしょで、湯
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