弟も七、八名――。
 伝六、辰を引き従えてずかずかはいっていくと、
「許せよ。六郎左衛門は在宅か」
 うれしいほどに重々しく鷹揚《おうよう》でした。
 だのに、職人どもがどうしたことかまたぼんくらばかり。いわゆる巻き羽織衆と称して、およそ八丁堀にお組屋敷を賜わっているほどの町方同心ならば、いずれも羽織のすそを巻いて帯にはさんでいるのが当時の風習でしたから、それだけでもひと目見たらわかりそうなのに、とち狂ったのがもみ手をしながらまかり出ると、いらざることをべらべらと始めました。
「いらっしゃいまし、半弓はどの辺にいたしましょう。あちらの十六丁は柘《つげ》に櫨《はぜ》の丸木弓でござります。ちと古風でござりまするが、それがお不向きでござりましたら、こちらが真巻きにぬり重籐《しげとう》、お隣が日輪、月輪、はずれが節巻きに村重籐《むらしげとう》。どの辺にいたしましょう」
 のぼせ返って聞きもしないことをまくしたてたものでしたから、鋭い一喝《いっかつ》。
「控えろ。身どもの腰がわからぬか」
「なんでござりましょう」
「手数のかかるやつどもじゃな。これなる巻き羽織が目にはいらぬかときいているのじゃ」
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