して、夜ふけにそっと様子見に参りましたら、次郎松がお嬢さまのお家出をなさった話の末に、あのにしきの守り袋を見せまして、ついきょう、青梅から差し出し人のわからぬ急飛脚で、このような袋と手紙とを届けてくださりましたが、どうやらお妙さまのお贈り物のようじゃから、念のため捜しに行ってみたらどうかというてくれましたゆえ、すぐやって参りまして、ようようこの尼寺でお見かけしたのでござります」
「じゃ、むろんおまえさんたちふたりは、あの三千両を持ち出してきてくれた相手が次郎松ってことを、知っていなすったんだね」
「はっ。この弥吉が追い出されるとき、次郎松がお嬢さまとてまえとに、こっそり告げてくれましたゆえ、ふたりとも身にしみて親切に泣きましてござります」
「そうわかりゃ、もう不審はねえはずだ。さ! 星空でもながめながめ、みんなして大手をふりながら、ゆっくり駕籠《かご》で江戸へけえりましょうよ。五丁そろえて乗りこみゃ景気がいいぜ」
はればれとしたようにいいすてると、名人は先にたって思い出多い情けが丘を向こうへ降りていきました。
しかし、それだのに、なおあいきょう者が、まごまご首をひねっていましたもの
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