ゆえ、こわさもこわくなりましたが、無縁仏のおなご衆も、このまま捨てておいたら行くところへも行かれますまいと存じましたゆえ、ふとふびんがわきまして、わたしの身代わりにして野べの送りさせてしんぜようと、死体をいただき、髪の毛をお切り申しあげ、着物もわたくしのとお着替え申しあげて、身代わりにしたのでござりまするが、偽りながらも死んだ身となったわたくし、もうふたたび世には出られまいと存じましたゆえ、この尼寺へ身を託したのでござります」
「そうでござんしたか。名まえは違って仏に祭られましたが、その身寄りのないおなご衆も、きっとあの世で、あなたさまのお心やりに手を合わせておりましょうよ。では、こっちの弥吉どんだが、おまえさんこっそり次郎松にお会いなすって、あの金襴《きんらん》織りの守り袋を見せてもらったんじゃござんせんかい」
「…………」
「いいえ、なにもそんなにこわがらなくともいいですよ。江戸っ子ならば、すっぱりとおっしゃいな」
「申します、申します。おめがねどおりでござります。ちょうどおとついでござりました。追い出されてみましても、やっぱり恋しいおかたはおかた――そのごどうしたじゃろうと存じま
前へ 次へ
全58ページ中55ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング