でしたから、名人がかわいい配下の血のめぐりを補ってやろうというようにきき尋ねました。
「よく首をひねるやつだな。なにがふにおちねえのかい」
「だって、だんながどうしてふたりともここに来ているとおにらみなさったか、それが薄気味わるいですよ。江戸の日本橋にいらっしゃって、十里ももっと上の青梅の空に、こんなすてきもねえ青葉の名所があるっていうことなんぞ、いかなだんなだって、そうそうわかりっこはねえと思うんだからね」
「しようのねえやつだな。男の尼になりてえだの、ふぐじるがどうだのと、とんきょうなことをいっているから、いちいちおめえなんぞはそのとおり首をひねらなきゃならねえんだ。おれの青梅と眼がついたな、あの金襴《きんらん》織りの守り袋からだよ。ありゃ青梅《おうめ》金襴といってな、ここの宿でなきゃできねえ高値《こうじき》なしろものさ。それへもっていって、お寺さんのお線香がしみついているうえ、あの手紙が紛れない女文字だったから、お妙さまの尼美人ぶりにお目にかかれるだろうと眼がついたんだよ。どうだい、伝六あにい! 呉服屋をのぞくにしても、さらしもめんや、欝金《うこん》もめんみてえな安い品をのぞくな
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