のころは十七、八歳! そりたての御弟子頭《みでしがしら》のそのみずみずしさ!
名人は黙然として、ややしばし目を注いでいましたが、そこのかきねに、人でも出はいりしたらしい枝の折れと、そのくずれがきした塀そとの丘の上に、あちらこちらと印せられている青草を踏みにじった足跡を発見すると、もうそれで用は済んだというように、不意といいました。
「じゃ、暗くなるまで、そこらの草むらの中で、ひと寝入りしようぜ」
先にたってかっこうなくぼみを見つけると、いつもながらの閑日月、すでにもう夢の国の人でした。
――かかるうちにも、しだいに時はたって、ようやく押し迫ったものは、とっぷり暮れた群星ちりばめられたる星月夜です。そして、ほどなくひびいてきたものは、五ツを告げる尼僧院内の鐘の音でした。
「よしッ、もうそろそろ夜のお勤めが終わったころだな。伝六ッ、辰ッ、もうつまらねえことをしゃべるなよ」
いいつつ、くぼみから身を起こすと、名人の忍び寄るように近づいていったところは、日の暮れまえに見ておいたあの生けがきのくずれのそばでした。そこの草の茂みの中に、なにを待とうとするのか、じっと息を殺して身を潜めたとき
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