の広やかな広場の庭を三々五々、一団一群、およそ七、八十名ばかりのいずれもすがすがしい尼美人たちが、夕べの観経《かんきん》の前のいっときを、気まま身ままに、いと悩みなく逍遙《しょうよう》していたのです。
 さるをあいきょう者の伝六が見て、なんじょう黙していられましょうぞ!
「ちぇッ、ね、だんな! ちょっと、だんなったらだんな!」
「うるせえな、何を目色変えるんだ」
「だって、今しみじみと思っているんですがね。男は尼さんになれねえもんでしょうかね」
「あきれたやつだな。でも、おまえは日本橋を出るとき、青葉見物なんぞごめんだといったじゃねえか」
「ありゃ江戸へ置いてきた伝六で、ここへ来た伝六は別口ですよ。ね! 男でも尼になれるっていうんなら、あっしゃもう今からでもここへ二、三年|逗留《とうりゅう》してえんですが、なんとか尼になれる法はござんすまいかね」
「もうしゃべるなッ」
 しかっておいて、じっとなお目を注いでいましたが、と――そのとき、はしなくも名人の目にはいったものは、たったひとりきり、人々の群れから離れて、深く物思わしげに悩み沈みながら、うちしおれているひときわ美しい尼美人でした。年
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