りましたろう! 第一に目を射たものは、そこの銀燭《ぎんしょく》きらめく大広間の左右に、ずらりと居並んでいる、無慮五十人ほどにも及ぶ花魁群の一隊でした。それすらもがおよそ不審な光景と思われるのに、よりいっそういぶかしく思われたのは、それなる花魁群に囲まれながら、狂気しているのかと見ればそのようにも見え、正気かと思えばそのようにも思えるひとりの六十あまりなる老人が、髪の毛をそっくりむしりとられた京人形をひしと抱き占めて、なにかわからぬうわごとをつぶやきながら、しきりにそれなる人形をあやなしているのでした。しかも、その前に、ざくざくと積まれた千両近い黄金の山!
だのに、豆やかな善光寺辰めがさらに奇怪で、一方の端には怪猫をからめ取り、他方の端には逃げ去ったはずの蛸平を、両々振り分けの投げなわにからめとって、いっこう恐るるけしきもなくにやにやとやっていたものでしたから、伝六のことごとく目を丸くしたのはいうまでもないことでしたが、名人もいささか意外にうたれたとみえて、まず辰に尋ねました。
「これはいったい、どうした子細じゃ」
「どうもこうもない、あの人形とぶつぶつさえずっている薄気味のわるいおや
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