住み家に向かいました。

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 しかるに、行きついてみると、それなる吉原|幇間《ほうかん》がすこぶる奇怪でした。ずいとものをもいわずに上がっていった右門の姿と、そのこわきにかかえられている怪しの髪の毛を認めるや、ぎょッとあとずさりして、みるみるうちにくちびるまで色を変えていましたが、やにわにそこにあったあんどんをけたおしたまま、必死に表のほうへ逃げ走っていったものでしたから、鋭い命令の下ったのは当然!
「辰ッ、投げなわで押えろッ」
 しかし、妙です。
「おやッ。辰めがどこかへ消えてなくなっちまいましたぜ!」
「なにッ、いない? ねこはいるかッ」
「そいつもいっしょに駆け落ちしちまったらしいですよ」
 蛸平に、辰に、怪猫と、一瞬に三個の姿が、忽焉《こつえん》としていずれかへ消滅してしまったものでしたから、いかな捕物名人も、これにはいたくめんくらったようでしたが、と、――そのときまさしく裏の、へい一つ越えた四ツ菱屋の二階とおぼしき方角に当たって、ニャゴウとひときわ鋭く鳴きたてた怪猫の声がありましたので、いよいよいぶかしみながら、はせつけてみると、そもいったいどうしたというのであ
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